がんばれ、オーストラリア映画! - Kenjis Movie Review
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がんばれ、オーストラリア映画!

 

[最近のオーストラリア映画から]

不調が続くオーストラリア映画で、ある程度の結果を出した最近の映画は、「呼吸(Breath)」と「黒衣のレディーズ(Ladies in Black)」の2本。

BREATHは、TVシリーズ「メンタリスト」でスターになったサイモン・ベーカー主演で、脚本と監督もベーカーがてがけた。正直言って退屈。70年代の年上の女性と初体験する少年のスイートビターな話だが、この類の映画でもっとましなのはいくらでもある。サーフィンを持ってきたのがみそだが、それだけで映画は救えない。好感度が高いナイスガイのベーカー初監督作品に、水を差したくはないのですが・・・。監督ぶりは、一応映画にはなっていましたというところだろうか。

 

 

Ladies in Blackは、ブルース・ベレスフォードが久しぶりにメガホンをとった映画。1959年のシドニーの大きな百貨店で働く女性たちのドラマをコメディ・タッチで描いたもの。黒衣ということで葬式へ行く女性を思い浮かべるかもしれませんが、この黒衣は百貨店のユニホームです。ベレスフォードはオーストラリアから国際的な監督になった一人。ジェシカ・タンディがオスカーをとった「ドライビングMissデイジー」が有名。もちろんベテラン監督の作品ですので、映画としては完成していますが、面白いかと聞かれると答えに窮します。2作品ともベストセラー小説(国内で)の映画化で、共にノスタルジックなストーリーです。国内では、まずまずの結果を出したみられています。オーストラリア映画の辛いところは、絶対人口数が少ないので国内で一応の成果ぐらいでは黒字にならないのですね。映画を商業的に成功させるためには、海外での成功が(特にアメリカ)、必須です。ベイカーの映画はすでにアメリカで封切られましたが、大惨敗。ベレスフォードのは、封切りが決まっていません。

映画は制作費の3倍の収益でトントンと言われています。簡単に言うと、例えば20ドルのチケットは半分が劇場へ、半分が製作者サイドへ行きます。実際にはそれに宣伝費が上乗せされるからです。

ベイカーの作品は、制作費が約7ミリオンで4ミリオン強の総収益、ベレスフォードは約11ミリオンの制作費で、約11ミリオンをピックアップ(アメリカは未定)、今後テレビ局へのセールスとDVD化での収益が望めますが、劇場で当たらなかった作品がそれで大きな稼ぎは望めません。

ということで、映画がビジネスである限り、儲けて官軍、損して賊なら、上記の2作品が官軍になるのは不可能です。国内で一応の結果を残したと言われる作品でさえ、実情はこんなものなんですね。

[オーストラリア映画の歴史]

 

オーストラリア映画の第一号が、ハリウッドのそれより古いことを知って驚くが、オーストラリア映画が世界中で認知されたのは、1970年以降。満を時したようにヒット作や名作が続出しました。商業的に大成功したのは、何と言っても「マッドマックス」。文芸作として、「我が青春の輝き」「ピクニックatハンギングロック」「ブレイカーモラント」「ニュースフロント」「ストームボーイ」「誓い(ガリポリ)」など。そうそう艶笑コメディの「アルビンパープル」シリーズも受けました。日本人が観たらアホみたいな映画としか思えない代物ですが、特にオージーの男性には大受け。

80年に入り、「クロコダイルダンディ」というメガヒット作が世界中で席巻しました。続いて、カーク・ダグラスを迎えて作った「スノーウイマウンティンから来た男」や「ファーラップ」「思春期ブルース」「ヤングアインシュタイン」などが当たりました。「思春期・・・」は少し関わりがあるんですね。これはサーファーギャル(古い)2人が書いた実体験の本がべストセラーになり映画化(べレスフォード監督)されたものですが、「スクリーン」を出していた近代映画社に頼まれ版権を取り訳し、映画の封切りに合わせて発売しましたが(日本語のタイトルは-ハイスクールグラフティー渚のレッスン)、映画も本も不発に終わりました。

90年代には「マッド・・」のジョージ・ミラーが今度は豚を主人公にしたコメディ「ベイブ」を大ヒットさせました。コメディが当たった年で、「プリシラ」や「ミュリエルの結婚」「ダンシング・ヒーロー」もヒット。ジェフリー・ラッシュがオスカーを取ったシリアスドラマ「シャイン」もこの年の作品です。そうそう、立ち退きをめぐるコメディ「ザ・キャッスル」も受けました。

2000年代に入り、徐々に陰り見せはじめたというか、スローダウンし始めるんですね。それでも「オーストラリア」「ムーランルージュ」「ザ・サファイアーズ」「ケニー」などが健闘。ラッセル・クロウが初監督した「ザ・ウオーターディバイナー」も、一応ヒットと考えていいのでは。

そしてここ10年は、合作はありますが純粋な意味でのオーストラリア映画の活躍というのが聞かれませんね。

オーストラリアには映画作りに関して、10BAという政策があります。簡単に言うと、映画産業奨励策で、70年代後半から起きたオーストラリア映画の大躍進を、政府が後押しするカタチで生まれたものです。映画に投資することで一種の税金緩和の恩恵。確かにこのおかげで、しばらくは映画ラッシュになりました。ただなんでも諸刃の剣だと思いますが、愚作が溢れたのも事実。なぜなら、仲介に銀行や会計事務所が入ることで条件を合わせることを優先し、この映画を作りたいという情熱から生まれたものが少なかったのですね。10BAは現存していますが、投資家にとってもう魅力のあるものではなくなっているのが現実ではないでしょうか。

[世界へ羽ばたいた監督とスター]

 

 

前述のべレスフォードやミラー以外にハリウッドに進出したのは、「ピクニック・・」のピーター・ウェアー。「目撃者(ハリソン・フォード)」や「今を生きる(ロビン・ウィリアムス)」をヒットさせ、石田純一が主演したTVミニシリーズ「カウラ・ブレイクアウト」のフィリッ・ノイスは、「硝子の塔(シャロン・ストーン)」や「今そこにある危機(フォード」が成功。「ジミィブラックスミスの歌」というアボリジニの悲劇を描いた文芸作で注目されたフレッド・スケピシは「愛しのロクサーヌ(スティーブ・マーティン)」、「ロシアハウス(ショーン・コネリー)」をヒットさせました。以上は全て、70年代に起きたオーストラリア映画興隆期の中心的な人たち。それからずっと後に出てきたのは、「ダンシングヒーロー」のバズ・ラーマン。レオナルド・ディカプリオと気が合ったのか、「ロミオ+ジュリエット」、「華麗なるギャッツビー」のリメイクにディカプリオを使って当てました。作品的には前作(オリビア・ハッシー版とロバート・レッドフォード版)を超えてないと思いました。異色なのは、ホラー映画の人気シリーズ「ソウ」は、メルボルンの若者二人(ワンとワンネル)がデモテープをワーナー・ブラザースに送り、それが気に入られハリウッドで映画監督としてデビューする夢を叶えたのですね。

スターでは、何と言ってもメル・ギブソンとジュディ・デイビスがパイオニア。ギブソンは「マッド・・」が日本で大当たりし、スターとなった。このことを彼は知らなくて「スクリーン」の初取材で告げると、パッと顔を輝かせ見せた笑顔は今でもよく覚えています。その後何度も取材をさせて貰いました。夏号の写真のために冬の寒空のビーチで、海パン一つで波打ち際を何度も走って貰ったのは、今では考えられない出来事。友達になったなんて自惚れたことは言いませんが、パブでビールを飲みながらよく雑談しました。当時ギブソンはクレナラに2階建ての小さな家を買いローンがあり、1児の父親で、日本でCMに出れないかと打診され、当時の編集長を通して動きました。映画からバイク関係でと思いホンダに持って行きましたが、結局まとまらなかったです。彼はアメリカでスーパースターになった後、日本のビールのCMに出ました。それだけに、再婚した若いロシア美人とのDV騒動や、反ユダヤ人への差別発言でスキャンダルの嵐のど真ん中に居る時、願っていたことはただ一つ。どうか「ハリウッドの悲劇」にはならないで欲しいということでした。2016年に監督した「ハクソー・リッジ」が成功しカムバックした際は、胸をなでおろしました。デイビスはマイルズ・フランクリンの自伝「我が青春の輝き」で注目後、巨匠の故デイビッド・リーンの大作「インドへの道」のヒロインに抜擢されたことが、世界のスターへのパスポートに。その後ウディ・アランのお気に入りで何度も彼の作品に出ました。

続いて、ニコール・キッドマン、ラッセル・クロウ、ガイ・ピアースが。キッドマンはトム・クルーズと離婚後、「めぐりあう時間たち」でオスカーをゲット。芸術的にはクルーズを抜きました。クロウも「グラディエーター」でオスカーを。最近は超肥満気味ですが。

 

ケイト・ブランシェットは、NIDA(国立演劇学校)を卒業後(ギブソンもディビスもここの卒業生)、数年後には英映画「エリザベス」に抜擢されて世界中に知られるようになり、あっという間に演技派トップスターの座を確保。オスカーはダブル受賞。インタビューの際、メルボルンのハイスクール時代のベストフレンドは、日本人の女生徒だったと言っていました。ナオミ・ワッツは、長い間B級に留まっていましたが、鬼才デイビッド・リンチの「マルホランドドライブ」でびっくりするような演技を見せ、ハリウッド版「ザ・リング」が大ヒット。名実ともにA級スターへ。ヒュー・ジャックマンは「Xマン」でビッグ・アクションスターに。現在最も高い主演料を取るのはこの人かも。国内ではコメディアンからスタートして、ハリウッドでは2枚目俳優に転じたエリック・バナ。クリス・ヘムズワースは大ヒットシリーズ「マイティ・ソー」が続いている限り安泰。ローズ・バーンは清純派美人にしては、以外にもコメディ系でヒットが続きます。いわゆるイケメンからは程遠いが演技派で、監督としての才能もあるジョエル・エドガートン。

そして今一番の注目の的は、マーゴット・ロビー。セクシー系正統派美女で、ディカプリオの「ウルフ・オブ・ウォールストリート」の愛人役でハリウッドデビューした後、着実にキャリアを築き、綺麗なだけではなく「アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル」でオスカーにノミネート。ヘムワーズ共に長寿ソープ「ホーム&アウェイ」の出身。現在主演作が目白押し。

 

最後に忘れてならないのは、ラッシュとジャッキー・ウィバー。ラッシュが「シャイン」に主演したのは45歳の時。子役からスタートし国内ではよく知られたベテラン女優のジャッキーに至っては、メルボルンを舞台にした映画「アニマル・キングダム」でオスカーにノミネートされたのが国際的に大ブレイクとなったのだが、当時なんと63歳。二人は多くのオーストラリアの俳優たちに大きな希望を与えたのは間違いない。年齢は関係ない。チャンスは来るんだという希望を。

今後オーストラリア映画がどういう展開を見せるのか予測がつかない。起爆剤として、「クロコ・・」のようなオーストラリアカラーが満載され、そして世界中に大アピールする映画の登場を待っています。

 

 

 

 

 

 

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