
05 Feb あん 樹木希林の静かな演技が心にしみる
監督はカンヌ映画祭にとても強い河瀬直美。これも映画祭の正式参加作品です。小さなどら焼きの店をやってるおっさんが長瀬正敏。訳ありの過去を持つしがない中年男を、リアルな息づかいで演じています。求人募集の貼り紙をみてやってくるのが、樹木希林の老女。あまり気乗りもせずに雇ってみると、これがあん作りの天才なんですね。それまでは、ポツリポツリのお客しか来なかったのが、口利きで評判を呼び、大盛況。この老女、ライ病、おっと今はハンセン氏病と言うんですよね。それを患っていて、患者たちが収容されている施設に住んでいます。
ところがハンセン氏病であることが噂になり、あっ言う間に客が途絶えてしまいます。樹木は職を失い、そして施設で亡くなります。店に来る中学生の少女役で、孫の内田伽羅が映画デビュー。モッくんの娘さんですね。七光りではなくオーディションでゲットしたそうです。良く言えば慎重な演技、悪く言えば硬いという感じです。ほんの2シーンですが、意地の悪いおばさんを演じた浅田美代子が上手い。
最後、樹木が長瀬と少女に残した手紙が樹木によって淡々と読まれます。その中で、特別に何かになれなくてもいい。私たちは、この世を見るために聞くためにだけ生まれてきたのよという言葉は、樹木が言うことで、心に沁みます。
一流のスタッフを一流の監督が指揮を取ることで、一流の作品に仕上がった映画。単純明快な方式ですが、そうとも限らないのが映画の世界。
樹木希林さんを渋谷のご自宅でインタビューしたのは、2014年の晩春の頃。前日ホテルの地下のアーケードの花屋で樹木さんへの花束を選んでいる時、向こうから内田裕也さんが歩いてきたのは奇遇でした。綺麗な白髪のロン毛でつえをついていましたが、強面のオーラが溢れ出ていました。
インタビューは樹木さんの豊かなユーモアのセンスのおかげで、終始笑いが絶えない時間となりました。いつもインタビューが終われば、「ありがとうございました」の言葉とともに、相手と握手をさせて頂くのですが、樹木さんと握手をした時、ギュッと握りしめてくれたんですよ。反射的にこちらもギュッと握り返していました。樹木さんと通じ合えたなんて、自惚れたことは言いません。ただ、それは思い出すたびに、暖かい気持ちにさせてくれるエピソードででした。
どら焼きは好物なので、この映画を観た後は、どら焼きを食べる度にこの映画を思い出し、握りしめてくれた樹木さんの握手を思います。
80点
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