30 Jun 哀愁の花びら Valley of the Dolls 愚作が時を経てクラッシックに
昔々、ニューヨークに、必ず富と名声をこの手につかむと固く決意した、一人の野心にあふれた女性が居りました。手始めにブロードウェイで舞台女優となり、女優として大成しようとし、その後映画にも出演、ただし主役級ではなく助演。飛び抜けた美貌も演技力もないことを悟り、次に目指したのが作家。自身のペットを題材にした最初の小説が、評判も良くそこそこ売れたことで気を良くし、次は長編にとりかかります。自身もいろいろと経験をしたショービジネスの世界を描いたもの。1年半かかり完成させた本が書店に並ぶと、なんと一躍ベストセラーに。ショービジネスの世界で生きる3人の若い女性の成功と挫折、愛と憎しみのドラマが交錯するこの本のタイトルは、「Valley of the Dolls(人形の谷間、人形は当時の睡眠薬のスラング)」で、作家の名前は、ジャクリーヌ・スーザン。何十週間もベストセラーリストのナンバーワンに輝いたこの本の映画化のため争奪戦が繰り広げられたんですね。20世紀フォックスが権利を勝ち取った後、どの女優が演じるのかが話題の種になりました。当時のトップスターだった、キャンデス・バーゲン、アン・マーグレット、ラクエル・ウエルチなどが取り沙汰されましたが、最終的には、1ランク落ちる女優たちが決定。バーバラ・パーキンス(TV長寿シリーズ「ペイトン・プレイス」の人気スターで黒髪の美女)、パティ・デューク(「奇跡の人」のヘレン・ケラーが有名)、シャロン・テイト(ポランスキー監督のワイフで、この映画が封切り後、悪名高いチャールズ・マンソンのグループに殺害されたブロンド美人)。
映画は大ヒットし、屋台骨が傾いていたフォックスを立て直した言われたぐらいですが、批評家には、最大の愚作と散々叩かれました。特に最悪のオーバーアクティングと罵倒されたのがデューク。
日本でのタイトルは「哀愁の花びら」です。観て、これは色付き歌入り紙芝居だと思いました。紙芝居なので、人間が描けてないなんてマヌケた批評は意味なし。ずっと後になって再び観た時、デュークのオーバーアクティングがこの映画の目玉だと確信しましたよ。
さんざんな評価だった映画を、時を経てクラシックに押し上げた功労者は、ゲイの人たち。この映画はゲイの人たちの好みにぴったりと合い、讃美者が深く広く浸透していったんですね。
作家のスーザンは、その後も同じようなタイプの本、「ラブマーシン」や「いくたびか美しく燃え」をベストセラーにし、映画化されヒットさせましたが、人形の谷間から8年後にガンで亡くなっています。渇望した富と名声を8年程度しかエンジョイ出来なかった事を思うと、少しだけシュンとした気持ちになりますが、いや、とにかくアメリカン・ドリームを掴んだ見事な女性だと思います。
70点
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